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特集

「EUタクソノミー」と脱炭素化に向けた各国の原子力政策
(2022.09.09掲載)

欧州議会は、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に原子力と天然ガスを含める提案を本議会会合で可決・承認しました。欧州理事会が、本提案に異議を唱えなかったため、原子力と天然ガスを含むタクソノミーは、2023年初頭に発効します。

本特集では、「EUタクソノミー」の概要と、脱炭素化に向けた欧州各国の原子力政策について、続けて米国をはじめ、各国の原子力政策について紹介します。

1.「EUタクソノミー」について

欧州議会は2022年7月6日、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に原子力と天然ガスを含める案を本会議で可決・承認しました(賛成328、反対278、棄権33)。7月11日までに欧州理事会が異議を唱えなかったため、原子力と天然ガスを含むタクソノミーは、2023年1月1日に発効します1

欧州(EU)では、これまで、SDGsと「パリ協定」2目標達成の両立を目指し、金融面からの対策について検討が進められてきました。欧州委員会は、EUの2030年の気候目標を達成するために、エネルギーへの追加投資が必要になると考えており、公的予算だけでは賄えず、民間金融部門の参加が不可欠となります。そこで民間の金融機関による融資に対し、「持続可能性のための金融」という制度改革を行い、投資対象を適切化しようとする動きがありました。

EU域内の民間の金融活動は、その融資対象を「持続可能性」の観点から分類し、善(グリーン)と判断された対象への融資を促進し、悪(ブラウン)と判断された対象には融資はストップしていく、というものです。

「EUタクソノミー」は見せかけの環境配慮を装った事業を廃し、環境上の持続可能性を満たす真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう明確に定義づける枠組です。タクソノミー(投資対象の分類基準)に含まれないエネルギーへの新規投資は相当限定されます。

タクソノミーが単なる「エネルギーお勧めリスト」にとどまらない点は、「善(グリーン)の融資」を行う銀行を優先的に存続させる、という仕組みがあることです。すなわち、金融機関自らが「EUタクソノミー」の定義に沿って、持続可能でかつ環境影響の少ないエネルギーに投資対象をシフトしていくことを誘導する政策が盛り込まれています。

2.脱炭素化に向けた各国の原子力政策※関連する情報はコチラをご覧ください。

(1)仏国3

仏国マクロン大統領は、同国のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するという目標の達成に向け、国内で改良型欧州加圧水型原子炉(EPR2)を新たに6基建設するとし、さらに、この6基とは別に8基のEPR2の建設に向けて検討を開始すると、2022年2月10日に発表しました。また、フランス電力EDF社が原子力・代替エネルギー庁CEAらと共同開発している加圧水型小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」に関しても、2030年までにプロトタイプを建設できるよう5億ユーロ(約650億円)の予算を付けてプログラムを進めていく考えです。革新的技術を採用した原子炉に関しても、安全性を向上させ、建設を行い、放射性廃棄物の発生量を削減し、核燃料サイクルの確立を目指すとしました。

(2)英国4,5,6

2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを実現するため、英国政府は2020年11月及び12月に「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」及び「エネルギー白書:ネットゼロ未来の原動力」を発表し、2030年代初頭までにSMR初号機及び新型モジュール炉(AMR)実証炉の導入を目指すことを明らかにしました。ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy: BEIS)は2021年7月、「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」及び「エネルギー白書」に基づき、2030年代初頭までにAMRの実証を行うAMR研究開発・実証(RD&D)プログラムを発表、同年12月に最も有望なAMRとして高温の熱利用が可能な高温ガス炉を選定、2022年2月に実証までのスケジュール概要を公開、同年4月にAMR RD&Dプログラムに関する公募を開始しました。

(3)ポーランド7,8,9

ポーランド政府は2021年2月に承認した「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」において、脱炭素化を進めるため、2033年にポーランド初の1基目、2043年までに追加で5基の原子力発電所を稼働させ、合計6~9GWの電力量を確保すると共に、高温ガス炉を主に産業用熱源として利用する可能性を表明しました。また、ポーランド国営の銅採掘企業KGHM社は2022年2月、米国ニュースケール・パワー社のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数備えた「VOYGR」発電設備を、2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を同社と締結しています。一方、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社は、GE日立・ニュークリアエナジー社のSMR「BWRX-300」の建設を計画しています。

(4)オランダ10

オランダの連立新政権は2021年12月、気候・エネルギー政策の中心に原子力を据えました。そして、原子力発電所の新規建設という目標に対して資金援助を行うとし、2023年に5000万ユーロ(約65億円)、2024年に2億ユーロ(約260億円)、2025年に2億5000万ユーロ(約325億円)を支援することを明らかにしました。また、新規原子力発電所への支援は2030年までに累積で50億ユーロ(約6500億円)に達すると予想されていますが、その時点までに発電所が稼働することは前提としていません。

(5)米国11,12,13

米国エネルギー省(DOE)は2020年5月14日、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を支援するため、革新的原子炉実証プログラム(ARDP)を開始すると発表しました。技術成熟度・実用化時期に応じて軽重をつけた3種類のプランを用いた多様な炉型の実証・開発支援を、同10月及び12月に開始しました。本プログラムのうち「先進的原子炉の実証」プランでは2028年運転開始目標として、テラパワー社のナトリウム冷却高速炉Natriumが20億米ドル(約2000億円)の政府支援を、X-エナジー社の高温ガス炉Xe-100が12億米ドル(約1200億円)の政府支援を受けています。

(6)中国14

中国政府は2022年4月20日、原子力発電所3か所の建設プロジェクトの認可を出しました。中国メディアによると、3カ所にそれぞれ2基、合計6基を建設し、総投資額は1200億元(約2兆4000億円)に達する見通しです。2030年には原子力発電の発電能力を現状の2倍以上(107GW以上)に増やして「脱炭素」を加速します。

(7)韓国15

韓国政府は2022年7月5日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権として、原子力の比重拡大など脱炭素化に関する課題克服に向けた、初のエネルギー政策方針を発表しました。前政権が定めた脱原子力政策を正式に撤回し、電源構成に占める原子力比率を「2030年に30%以上」へと上方修正しました。

(8)日本16,17,18,19

経済産業省は2021年6月18日、安全を最優先としたうえで、原子力エネルギーを最大限活用していくことを明記した、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。岸田首相は2022年5月27日、「エネルギー価格・供給の安定化と温暖化対策といった観点から原子力を最大限に活用するため、休止中の原子力発電所の再稼働に向け、確固たる措置を講じる」と発言、また2022年7月14日には、「原子力発電所を今冬に最大で9基稼働する」と述べ、2022年8月24日には、原発の新増設や建て替え、次世代型原子炉の開発について年末までに具体的な結論を出せるよう、検討の加速を指示しました。

報告:高速炉・新型炉に関する研究開発
戦略・計画室
戦略・社会環境Gr 豊岡 淳一
(本記載内容は2022年8月時点のものです)
1 European Parliament,Taxonomy: MEPs do not object to inclusion of gas and nuclear activities,July 2022.

URL:https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220701IPR34365/taxonomy-meps-do-not-object-to-inclusion-of-gas-and-nuclear-activities

2 United Nations Framework Convention on Climate Change,The Paris Agreement | UNFCCC.

URL:https://unfccc.int/process-and-meetings/the-paris-agreement/the-paris-agreement

3 エリゼ宮(大統領府)、Reprendre en main notre destin énergétique !,February 2022.

URL:https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2022/02/11/reprendre-en-main-notre-destin-energetique

4 BEIS; The ten point plan for a green industrial revolution,November 2020.

URL:https://www.gov.uk/government/publications/the-ten-point-plan-for-a-green-industrial-revolution

5 BEIS; Energy white paper: Powering our net zero future,December 2020.

URL:https://www.gov.uk/government/publications/energy-white-paper-powering-our-net-zero-future

6 BEIS; Advanced Modular Reactor (AMR) Research, development & Demonstration: Phase A,April 2022.

URL:https://www.gov.uk/government/publications/advanced-modular-reactor-amr-research-development-and-demonstration-programme

7 原子力産業新聞,ポーランド内閣,2040年までの新しいエネルギー政策を承認,2021年2月3日

URL:https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/6438.html

8 原子力産業新聞,米ニュースケール社,ポーランドでのSMR建設で銅の採掘会社と契約,2022年2月16日

URL:https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/11785.html

9 原子力産業新聞,ポーランド規制当局,2つのSMR設計について予備的安全性評価等を実施,2022年7月12日

URL:https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/13879.html

10 World Nuclear News,Collaboration for Rolls-Royce SMR deployment in the Netherlands,August 2022

URL:https://www.world-nuclear-news.org/Articles/Collaboration-for-Rolls-Royce-SMR-deployment-in-th

11 DOE,U.S. Department of Energy Launches $230 Million Advanced Reactor Demonstration Program,May 2020

URL:https://www.energy.gov/ne/articles/us-department-energy-launches-230-million-advanced-reactor-demonstration-program

12 DOE,U.S. Department of Energy Announces $160 Million in First Awards under Advanced Reactor Demonstration Program,October 2020.

URL:https://www.energy.gov/ne/articles/us-department-energy-announces-160-million-first-awards-under-advanced-reactor

13 NATRiUM,Frequently Asked Questions.

URL:https://natriumpower.com/frequently-asked-questions/

14 日本経済新聞,中国で原発建設6基承認 総投資2兆4000億円,2022年4月21日.

URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM218C70R20C22A4000000/

15 World Nuclear News,New energy policy reverses Korea's nuclear phase-out,July 2022.

URL:https://www.world-nuclear-news.org/Articles/New-energy-policy-reverses-Korea-s-nuclear-phase-o

16 経済産業省,2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました,2021年6月18日.

URL:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html

17 Nuclear Engineering International,Japan's Prime Minister promises firm action to restart NPPs,May 2022.

URL:https://www.neimagazine.com/news/newsjapans-prime-minister-promises-firm-action-to-restart-npps-9733957

18 日本経済新聞,原発を冬に最大9基稼働 首相表明、消費電力の1割,2022年7月14日.

URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA133Z30T10C22A7000000/

19 読売新聞,首相,来夏以降に原発7基の再稼働目指す考え…「国が前面に立ってあらゆる対応とる」,2022年8月24日.

URL:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220824-OYT1T50185/